昨年(2020年)正月、中国武漢で発生した新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)は、瞬く間に世界に広がり、今もって収束のきざしが見えない。最初は対岸の火事と思って、SARSのようにいずれ近いうちに沈静化するだろうと考えていたが、あれよあれよという間に世界の隅々にまで広がってしまった。
いったいこのウイルス、どこで作られて、なぜこのように一気に全世界に広まってしまったのか。今までのウイルスや疫病の拡散を考えたときに、普通では考えられないことである。
1年を経過して、今までのファクトをSNSなどで集めて分析してみると、そこには中国とWHOが深くかかわっていることがわかる。両者が責任を負うべき重大な問題が見えてくる。
私はウイルスや感染症の専門家ではない。しかし、素人の視点から新型コロナウイルスの問題を検証してみたいと思う。
下記の記述にあたって参照したテレビ番組やSNSの投稿を、資料番号とともにまとめておき、本文の中で参照するようにしている。
資料番号
1.2020/12/27
NHK2020年12月27日「謎の感染拡大~新型コロナウイルスの起源を追う~」
2. 2020/1/6
中国で原因不明のウイルス性肺炎が・・・当局はSARS否定(20/01/06) – YouTube
3. 2020/1/16
新型コロナウイルス国内で初確認 厚労省が会見(20/01/16) – YouTube
4. 2020/2/12
新型ウイルスの病気、正式名称は「COVID-19」 WHOが命名 – BBCニュース
5. 2020/1/31
国立感染症研究所で分離に成功した新型コロナウイルスの電子顕微鏡写真 (niid.go.jp)
6. 2020/6/10
新型コロナ、19年夏に発生していた可能性 研究 写真5枚 国際ニュース:AFPBB News
7. 2021/3/30
新型コロナ: WHO、「コロナは動物から」報告 武漢調査: 日本経済新聞 (nikkei.com)
8. 2021/4/15
新型コロナ: 新型コロナウイルスの起源 WHO、4つの仮説を検証: 日本経済新聞 (nikkei.com)
9.2020/3/20
新型コロナが流出した、武漢のウイルス研究所を特定 – YouTube
11. 2021/3/3
新型コロナ: [FT]WHO調査団、中国のコロナ起源説に深い疑念示す: 日本経済新聞 (nikkei.com)
12. 2021/2/7
新型コロナ: 中国・武漢、感染警鐘の医師死去から1年 続く言論弾圧: 日本経済新聞 (nikkei.com)
13. 2021/1/4
新型コロナ: 市民記者弁護人の資格剝奪、武漢の実態発信: 日本経済新聞 (nikkei.com)
14. 2021/1/13
新型コロナ: 習近平執務室の写真に透けるコロナ起源追究への壁: 日本経済新聞 (nikkei.com)
新型コロナウイルスはいかにして世界に拡散したか
新型コロナウイルスの発生とその後の展開
私たちが新型コロナウイルスの事件を初めて知ったのは資料2.にあるようなニュースではなかっただろうか。
中国湖北省武漢で2019年12月に、原因不明のウイルス性肺炎患者が多数発生した。当局は人から人への感染は確認しておらず、SARSの可能性も否定していた。
日本での初めての感染者は、資料3.にあるように、武漢市から帰国した男性だった。この時は、人から人への感染は明らかでなく、通常のインフルエンザの感染予防対策がとられていた。
この正体のわからない肺炎に対して、SARSやMERSのコロナウイルスに似ていることから、新型コロナウイルスという名前がいつのまにか使われるようになったと記憶している。
資料4.によると、2020/2/12 にWHOにより、新型コロナウイルスの正式名称がCOVID-19と付けられ、病名を呼ぶ時はこの名称を使用することとなった。一方で、この新型ウイルス自体の名前は、すでに国際ウイルス分類委員会(ICTV)によって「SARS-CoV-2」と名付けられていた。
2020/1/31には国立感染症研究所で新型コロナウイルスの分離に成功し、私たちにお馴染みのウイルスの写真が公開された。(資料5.)
当初は新型コロナウイルスの正体もわからず混沌とした状態であった。正式な発表は、資料1.によると、中国・日本を中心とした新型コロナウイルス事件のおおまかな流れは次のようになる。
- 2019年12月31日 武漢市「27例の肺炎」を公表
- 2020年1月3日 中国WHOに原因不明の肺炎報告
- 1月12日 中国WHOに「ウイルス遺伝情報」報告
- 1月14日 WHO「人から人への感染限定的」と発表
- 1月15日 日本初感染者
- 1月20日 中国専門家「人から人への感染」認める
- 1月23日 武漢市封鎖
- 1月30日 WHOの緊急事態宣言
- 2月3日 横浜港にクルーズ船入港
- 3月11日 WHOパンデミック宣言
下のマップは、日本経済新聞社がジョンズ・ホプキンス大学のデータをもとに作成したものである。新型コロナウイルスがどのように拡大していったかを、視覚的にわかりやすく表現している。
2020/1/11 中国の武漢市で感染者が広がり、死者も出ている。
2020/1/21 日本で初めて感染者が出ている。中国の感染急拡大。
2020/1/28 アジア各国、オーストラリア、アメリカ、ヨーロッパのいくつかの国に感染者が出はじめた。
2020/2/18 中国で感染者が爆発的に増加している。
2020/3/3 世界のほとんどの国に感染者が出始めている。
2020/3/31 スペイン、イタリアを中心としたヨーロッパでの急拡大、アメリカの急拡大が始まる。
この投稿を書いた最新の2021/6/14の状況。累積感染者は1億7583万人、死者は380万人。多くの犠牲者を出し、なおも拡大し続けている。
実は2019年の早い時期から世界に感染が広がっていた 広げたのは武漢富裕層観光客
公開されているSARS-CoV-2の発生と感染拡大の様子を見てきたが、実はこれよりはるか以前からSARS-CoV-2は世界に広がっていたことがわかった。感染拡大の立役者は、中国武漢の富裕層を中心とした観光客。
NHKの膨大な資料分析でわかったこと
資料1.のNHKの膨大なデータ分析によると、次の事実がわかる。
中国の例
イタリアの例
イタリアでは19年9月28日に遺伝解析の最も早い論文がある。また、11月には人に感染していたという論文が多数ある。
フランスの例
最初に人に感染したのはいつなのか
NHKの解析から
SNSには19年8月の分析も
資料6.には、さらに早い19年8月の指摘もある。
ボストン大学とハーバード大学のデジタル伝染病学に基づいた研究チームの予備調査で示唆されている。
研究チームは、2018年1月から2020年4月に撮影した武漢市の衛星写真111枚を分析した。さらに、中国のインターネット検索エンジン百度で特定の症状が検索された頻度も調べた。
研究チームによると、武漢市内の病院の駐車場に止められた車の数が2019年8月から急増し始め、その数は2019年12月にピークを迎えたという。
また百度の分析では、COVID-19に特有の症状とされる「下痢」の検索数を調べた。この結果、8月に増加がみられたことが分かった。これはこれまでのインフルエンザの流行時期にはみられなかった現象であるとともに、せきの検索データとも異なったという。
この分析結果は、資料1.のイタリアの下水道のPCR検査陽性や遺伝解析の論文、フランスの原因不明の肺炎患者発生とも一致している。
人への感染が始まった場所はどこなのか
NHKの分析から
人への感染経路として有力な説
現在、SARS-CoV-2の人への感染経路として次の説が有力である。
武漢海鮮市場でコウモリから感染
武漢の海鮮市場では、野生のコウモリが生きたまま売られている。コウモリはウイルスの媒介源としてよく知られている。このコウモリがSARS-CoV-2に感染していて、それを買って持ち帰った消費者、あるいは売買していた業者に感染したのではないかという説が当初有力であった。
しかし、海鮮市場では野生のコウモリを売買したことはないということが明らかになった。
動物から中間宿主を経由して感染
WHOの報告(資料7.資料8.)ではこれを最も支持している。コウモリなどのの野生動物から家畜などの中間宿主を経由して感染したという説である。コウモリやセンザンコウから似たウイルスが見つかっていることや、中間宿主を介したウイルス感染は他にも事例がある(SARS、MERS)ことから判断した。
中国科学院武漢ウイルス研究所などから流出
武漢にはウイルス研究所や毒物研究所など、いくつかの研究所が存在する。これらのいずれかからウイルスが流出したという説である。流出が不注意によるものか、事故によるものか。さらに故意に流出したとも考えられる。これについては別途投稿をしている。
習近平の野望:コロナに乗じて世界制覇を目論む 新型コロナウイルスを拡散させたのは習近平だ | レインボウ情報館 (nijinohashi.info)
これら研究所の中で最も有力なのが、病原体レベル4(P4)実験室がある武漢ウイルス研究所である。
WHOは、資料8.の中にあるように、「極めて可能性が低い」としている。研究所の管理は行き届いており、流行前に職員の呼吸器疾患の報告がなかったこと、血液検査でも感染歴が確認されなかったことなどを根拠としている。
しかし、この報告を覆す事実が見つかっている。資料16.によると、これまで公表されていなかった米情報機関の報告書から、中国の武漢ウイルス研究所に所属する3人の研究員が2019年11月に、病院での治療が必要になるほどの体調不良を訴えていたことが分かった。WHOの調査は形式的なもので、実態に踏み込んで調査していないことがわかる。
WHOの調査が入ったのは、最初に感染が確認されてから1年以上たった2021年1月28日から2月9日までの約2週間。しかも武漢ウイルス研究所の調査は最終日の1日だけである。1年以上の十分な証拠隠滅の時間がある。研究所の改修も進んでいる。1年前とは全く様子が違うだろう。WHOの調査は全く意味をなさない。
資料9.には2020年1月当時のリアルな分析がある。ここで分析者が注目しているのは武漢ウイルス研究所(この中ではP4研究室と表現している)ではなく、パニックに陥った病院に近い毒物研究所である。武漢ウイルス研究所は、海鮮市場から遠く離れた川向うにある。パニックに陥った病院は海鮮市場に近い場所にある。
2020年1月は実際このような大変な状況にあったことがうかがわれる。
このように疑惑の多い武漢ウイルス研究所流出説について、資料10.を始めとして欧米からはWHOに対して再調査を要望する動きが広がっている。
中国は、ウイルス研究所説を「陰謀」として強く否定している。しかし、これだけ否定し続けるには、公にされると困る何か訳があると見るべきではないか。
輸入冷凍食品を介して感染
輸入した冷凍食品にウイルスが付着していて海鮮市場で感染が広がったという説だ。中国が強く主張しており、中国よりとされているWHOも「可能性がある」と評価している。
しかし、専門家の多くは「極めて可能性が低い」としている。例えば資料11.では、WHOの調査団メンバーでさえも「想定しずらい」としている。
そもそも、中国の武漢より前にウイルス感染が広がった所がないのである。自国から感染が広がったことを認めたがらない中国の苦しい言い訳としかとれない。
正当性を欠くWHO報告書
このように、WHOの報告書は中国に配慮した内容で、世界の他の国からは受け入れられないものだ。結論は最初から決まっていて、それを正当化するために形式的に調査に入ったとしかいいようがない。そこには中国の下僕になり下がったテドロスWHO事務局長の意向が大いに働いている。
テドロスがなぜこれまでに中国に気兼ねをするのか。それは、中国がテドロスの母国エチオピアに多大な投資と援助をしているからである。ただそれだけで、全世界がこの一年、新型コロナウイルスに振り回され、なおも脅威にさらされ続けている。
中国の武漢ウイルス研究所流出説検証盛んになる (2021/8/6 追記)
この記事を書いたのち、武漢ウイルス研究所流出説の検証が盛んに行われるようになった。バイデン大統領は、米情報機関に90日以内に報告書を提出するよう命じた。その一つが公表された。これに関して、現代ビジネスの記事全文を巻末に掲載する。
これによると、2019年9月に武漢ウイルス研究所から流出し、10月18日から武漢で開催された「軍事スポーツ世界大会」で、参加した選手に感染して世界中に広まったことになっている。例の中国が、アメリカが持ち込んだと因縁をつけている大会だ。中国は、早くからこの大会で広まったことに気付いていたことになる。
そして、資料1のNHKの調査も、2019年9月に武漢ウイルス研究所から流出したことを裏付けることとなる。「武漢ウイルス研究所流出説」は確実となった。中国がWHOの再調査を強烈に子非する理由はここに」ある。
感染拡大を助長したのは何か
これまで新型コロナウイルスがいつどこで発生し、人への感染がどのようになされたかを見てきた。ではなぜこのように全世界に急拡大していったのだろうか。それには中国とWHOが大きな役割を担っている。
中国政府の言論統制
新型コロナウイルス関連の公表をめぐっては、中国当局の様々な言論統制が明らかになっている。このことがSARS-CoV-2の拡散をさらに加速させている。
自らも感染した湖北省武漢市の医師、李文亮氏は、2019年12月原因不明の肺炎を確認し、SNSに「(2002~03年に流行した)重症急性呼吸器症候群(SARS)が発生した」と投稿した。武漢市公安当局は20年1月3日、「デマを流した」として李氏を処分した。(資料12.)
市民記者、張展氏は武漢の医療の混乱ぶりなどをインターネットで伝え、海外メディアの取材も受けていたことにより、20年12月に懲役4年の実刑判決が言い渡されている。発信した内容がゆがめられているとして公共秩序騒乱罪に当たるとされた。
さらに張氏の弁護人を務める任全牛氏が、当局から弁護士資格を取り消されている。(資料13.)
また、資料9.でも指摘されているように、新型ウイルスに関する論文や報告が、当局によってことごとく削除されている。
さらに資料1.のNHKの調査によると、次のような中国当局の情報統制の疑いが見られる。
インターネット上で削除された記事や画像データ
新型コロナウイルス感染者報告の隠蔽
資料17.のNHKの今年1月の武漢の報告記事でも、様々な情報統制が伺われます。昨年1月の情報統制についても記述されています。武漢のある医師が匿名を条件に証言したものです。
この医師によりますと、勤務先の武漢市内の病院では去年1月以降、新型コロナウイルスへの感染が疑われる患者が、肺の病気で相次いで死亡し、保健当局に報告しようとしたところ、死因を高血圧や糖尿病などの持病に書き換えるよう死亡診断書の改ざんを指示されたということです。
そのうえで、遺体を直ちに火葬するよう求める意見も、合わせて診断書に記入するよう命じられたということです。
医師は「同僚の医師が、亡くなった患者3人の死因を新型コロナではなく『肺の病気で死亡』と書いただけで、その日の晩に、院長が保健当局に呼び出され、『死者を3人も報告するなんて迷惑だ』とどなられた。当局の目的は、死者の数を減らすためであることは明らかだ。元のデータが改ざんされているので、いったい、どれだけの人が亡くなったのかわからない」と話していました。
中国の新型コロナウイルス感染者、死者の数は、WHOに報告されたものよりはるかに多かったと予想されます。
中国政府の新型ウイルス報告の遅れ
習近平は1月17日から20日まで北京にはいない。資料14. によると、武漢市の内外と中国の外にウイルスがものすごいスピードで拡散していた時、習近平は北京にはいなかった。17、18日のミヤンマー訪問の帰り途、習近平は雲南省の少数民族、ワ族との酒宴にふけっていた。北京に戻ったのは21日であった。
人から人への感染を公表したのは1月20日になってからだった。資料14.によると、武漢市の新型コロナウイルスの感染規模は、中国当局が確認していた数(5万人)の10倍に当たる50万人近くに上る可能性があった。そして、武漢市から旧正月を前に人口の半分近くに当たる約500万人が中国内や国外に旅行に出かけていた。人から人への感染の公表の遅れが、これだけ重大な結果を招いているのだ。
資料15.で、米ハガティ上院議員が述べているように、中国政府のウイルス拡散防止対策の遅れの責任は重大である。
世界がウイルスの脅威に気づけないなか、武漢から北京への国内のフライトをすぐに停止する一方で、武漢からイタリア、北米へのフライトは運行し続けた。少なくとも、問題を隠蔽し感染の蔓延を加速させた責任は問われるべきだ。
中国に遠慮したWHOテドロス事務局長の対応の遅れ
WHOの対応の遅れも感染を急拡大させた要因の一つだ。そこには、中国に特別配慮したテドロス事務局長の意図が見える。
資料14.でも指摘しているように、
20年1月23日の緊急理事会で「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態」の宣言を見送った。中国から受け取った情報からみて、その時点では人から人への感染は家族内と医療関係者に限られ、世界的な脅威と判断するには時期尚早、と判断したのだ。
ある意味、それは当然だった。直前の1月21日まで習は北京に戻っていない。それなのにWHOがいきなり世界に向けて緊急事態を宣言すれば、体面が失われる。中国としてはそれだけはどうしても避けたかった。このWHOの判断が各国の油断を生み、深刻な事態を招く一因になった。
テドロスは中国に気兼ねして、重大な情報の公表を見送った。
ウイルスの起源を特定することは、ウイルス収束を加速させるために欠かせない。しかし調査団が中国に入ったのは、武漢市で新型コロナウイルス感染症の患者が出たとされる時から1年1カ月経てからである。この間、WHOは中国に遠慮して調査団の受け入れを強く要求しなかった。この間に中国に情報隠蔽の機会を与えてしまった。
終わりに
新型コロナウイルスがどのように発生し拡散していったのか、SNSなどに投稿されたたくさんの事実を見てきた。
今回の新型コロナウイルスの拡散の規模と速さは、今までのウイルスと比較にならないほど大きいものである。
なぜなのか。原因は中国政府の情報隠蔽と事実の公表の遅れが大きくかかわっている。そしてもう一つ重大なのは、中国に気兼ねをして感染拡大の対応を後手後手にしたWHOの責任である。習近平とテドロス、この2人が全世界に大きな犠牲を強いる結果を招いた。
貴重資料
ここからは、「現代ビジネス」長谷川幸洋氏の記事 2021/8/6 全文引用
新型コロナウイルスは「中国から流出」と断定した、米報告書の「驚くべき内容」(長谷川 幸洋) | 現代ビジネス | 講談社(1/7) (ismedia.jp)
新型コロナウイルスは「中国から流出」と断定した、米報告書の「驚くべき内容」
圧倒的な証拠の量で結論付けた
圧倒的な証拠が決め手となった
米下院外交委員会の共和党スタッフが「新型コロナウイルスは、中国の武漢ウイルス研究所から誤って流出した」と断定する報告書を発表した。この結論を導いたのは、衛星画像をはじめとする「圧倒的な量の証拠」だった。いったい、武漢で何があったのか。
同委員会の共和党スタッフは、マイケル・マッコール筆頭委員の下で、これまで2回にわたって、新型コロナ問題に関する報告書を発表してきた。2020年6月15日に発表された最初の報告書については、2020年6月26日公開コラムで紹介した(https://gendai.ismedia.jp/articles/-/73607)。
同年9月21日には、中国共産党と世界保健機関(WHO)の責任を厳しく追及する2回目の報告書を発表した(https://gop-foreignaffairs.house.gov/blog/mccaul-releases-final-report-on-origins-of-covid-19-pandemic/)。8月1日に発表された今回の報告書は、その続編だ(https://gop-foreignaffairs.house.gov/press-release/mccaul-releases-addendum-to-origins-of-covid-19-report/)。
今回の報告書は、これまで世界で断片的に報じられたり、収集された多くの客観的な証拠や証言を丹念につなぎ合わせて「武漢ウイルス研究所からの流出」という結論に導いた。その手法は、ほとんど「第1級の調査報道」と言ってもいい。
だれかが「私が流出させました」と自白したわけではないので、厳密に言えば、状況証拠の積み重ねである。それでも、もしも公正な裁判があるなら、「有罪判決」に導くのは可能だろう。少なくとも、中国とその仲間たちが宣伝してきた当初の「海鮮卸売市場起源説」は、もはやまったく信用に値しない。
報告書の後半では「仮説」と断りながら、武漢ウイルス研究所から始まった小さな感染が、あっと言う間にパンデミック(世界的な大流行)に拡大していくプロセスが物語のように語られていく。読者は「そういうことだったのか」と多くの謎に合点がいくはずだ。
突然起こった、不可解なシャットダウン
ここでは、報告書の記述に沿って要点を紹介したい。全文は84ページ。うち本文は62ページである(https://gop-foreignaffairs.house.gov/wp-content/uploads/2021/08/ORIGINS-OF-COVID-19-REPORT.pdf)。引用したサイトは、ほとんどすべて報告書に記載されている。
問題の武漢ウイルス研究所は、新型コロナの感染が広がる前、廃棄物処理システムやお粗末な空調設備の改造に取り組んでいた(https://archive.is/bfoTD#selection-229.0-229.131)。にもかかわらず、研究所の責任者の1人で「バット・ウーマン(コウモリ女)」こと、石正麗(Shi Zhengli)氏は、本来なら「BSL-4」という高度な実験室で行うべきウイルスの遺伝子操作実験を、「BSL‐2」や「BSL-3」のような簡易な実験室で取り組んでいた。BSL-2は歯医者の診察室レベルだ。
このデータベースを参照すれば、どんな病原体がいつ、どこで収集され、ウイルスがうまく分離されたかどうか、が分かる。新型コロナにつながるウイルスがあれば、それがいつ、どう発生したのか、起源を突き止める決定的な証拠になるのだ。
それまでデータベースは公開されていたが、なぜか、この日のこの時間に突然、シャットダウンされ、現在に至るまで、外部から接続できないでいる。この事実は、中国自身のデータベース管理情報によって確認されている(https://archive.is/AGtFv#selection-1553.0-1567.2)。
だが、石氏は、複数のメディアに対して「外部からサイバー攻撃を受けた後、保全上の理由でオフライン化した」とか「パンデミックの最中に受けたサイバー攻撃のためにダウンした」などと矛盾した答えを繰り返した。言うまでもなく、2019年9月時点でパンデミックは発生していない。
研究所は、中国人民解放軍とともに、生物兵器につながる秘密の研究をしてきた一方、安全性に重大な懸念があり、米外交官は国務省に技術者の訓練不足などを懸念する電報を送っていた。報告書は以上から「2019年9月12日以前のどこかで流出が起きた」と推測している。
地道な検証作業が実を結んだ
すると、何が起きたか。
報告書は、ボストン大学やハーバード大学の研究者たちによる調査に注目した。彼らは衛星画像を基に19年9月と10月、武漢にある6つの病院のうち、5つの病院の駐車場が他の平均的な日に比べて、非常に混雑していたことを突き止めた(https://dash.harvard.edu/bitstream/handle/1/42669767/Satellite_Images_Baidu_COVID19_manuscript_DASH.pdf)。
さらに、研究者たちは中国の検索エンジンである「バイドゥ」で「咳」と「下痢」が武漢でどれほど検索されていたか、を調べた。その2語は、同じ9月と10月にピークに達していた。「新型コロナと同じ症状の病気が武漢で広がっていた」状況を示唆する有力な証拠である。
2019年10月18日から武漢で「大イベント」が始まった。第7回軍事スポーツ世界大会(MWGs)である。これは「軍人のオリンピック」だった。世界109カ国から9308人の選手が集まり、27種類の329競技で競った。中国政府は23万6000人のボランティアを募り、90のホテルを用意した。
参加したカナダの選手は「街はロックダウン状態だった。私は到着後、12日間、熱と悪寒、吐き気、不眠に襲われ、帰国する機内では、60人のカナダ選手が機内後方に隔離された。私たちは咳や下痢などの症状が出ていた」とカナダ紙に証言している。
報告書は、この大会が「新型コロナを世界に広げた原因」とみている。競技会場も、6つの病院も、さらには大会参加後に体調不良を訴えた選手がいた場所も、すべて武漢ウイルス研究所の周辺に位置していた。
報告書は参加国のうち、イタリアとブラジル、スウェーデン、フランスの4カ国について、具体例を示しながら「2019年11月から12月にかけて、国内での感染発生を確認した」と記している。帰国した選手から感染が国内に広がったのだ。
中国による、必死の「隠蔽工作」
一方、武漢ウイルス研究所は石氏を中心にして、2013年からコロナウイルスを抽出する研究が始まっていた。6月25日公開コラムで書いたように、研究資金の一部は米国の国立衛生研究所(NIH)や国立アレルギー・感染症研究所(NIAID)から、ニューヨークの非営利団体であるエコヘルス・アライアンスを通じて、武漢ウイルス研究所に流れていた(https://gendai.ismedia.jp/articles/-/84497)。
報告書は「石氏とその仲間は、米国の資金とピーター・ダスザック氏(注・エコヘルス・アライアンス代表)の支援を得て、パンデミックが始まる前の2018年から19年にかけて、コロナウイルスを遺伝子的に操作し、ヒトの抗体システムに試す実験を盛んに行っていた」と記している。米国納税者の資金が中国の生物兵器研究に使われていたのである。
石氏は感染が広がり始めると、研究所の関与を隠蔽する工作に関わった。最初の試みは、2020年1月20日に科学専門誌「ネイチャー」に発表した論文である(https://www.nature.com/articles/s41586-020-2012-7)。
石氏は、論文で「雲南省の洞窟にいるキクガシラコウモリから抽出された『RaTG3』というウイルスが、新型コロナウイルスの遺伝子配列と96.2%同じであり、もっとも近い」と主張した。つまり「RaTG3こそが、新型コロナは自然由来であることを示す証拠」と指摘したのだ。
ところが、この論文が墓穴を掘ってしまう。
RaTG3について、専門家から多くの疑問が指摘され、彼女は10カ月後の20年11月17日、同じネイチャー誌で「RaTG3は、実は2012年から13年にかけて採集した『ID4991』というウイルスだった。また、完全な遺伝子配列が得られたのは、最初の論文に書いた2020年1月ではなく、2018年だった」と修正した(https://www.nature.com/articles/s41586-020-2951-z)。
彼女の主張が真実かどうか、は分からない。なぜなら、彼女は「ウイルスのサンプルはすべて使い果たした」と言っており、データベースのダウンで外部からは検証不能であるからだ。報告書は「なぜ、彼女はウイルスの名前を変えたのか」「なぜ、遺伝子配列の取得時期を偽ったのか」と疑問を投げている。
その答えは「2018年時点でID4991=RaTG3を発見していたとなれば、それに人工的な遺伝子操作を加えて、新型コロナウイルスを作っていたのではないか」という疑問が直ちに生じてしまうからだろう。報告書は、こう指摘している。
もう、言い逃れできなくなった
論文の修正を迫られて以降、石氏は「支離滅裂状態」になっていく。
たとえば、2020年夏の中国国営テレビとのインタビューでは「我々のウイルス研究はすべて記録が残されており、だれでもチェックが可能だ」と語った。だが、実際には先に書いたように、データベースに外部からアクセスできない。
2021年6月のニューヨーク・タイムズとのインタビューでは「私の研究所では、ウイルスの機能を高める『機能獲得』研究をしたことがない」と語った(https://www.nytimes.com/2021/06/14/world/asia/china-covid-wuhan-lab-leak.html)。これも、いまとなっては「真っ赤な嘘」であるのは明らかだ。
詳細は省くが、報告書は、武漢ウイルス研究所で「2005年以来16年間にわたって、石氏がダスザック氏とともに行ってきたコロナウイルスに関する研究」の足跡を、論文を紹介しながら、綿密に辿っている。そこでは、少なくとも2015年以降、まさに機能獲得研究が行われていた。
同じインタビューで、石氏は2019年秋に武漢ウイルス研究所の研究者が体調を崩した件を問われて「そんな事例はなかった」と否定した。これも、7月30日公開コラムで書いたように、ウォール・ストリート・ジャーナルの報道と米国務省の報告、さらにはWHO調査団に対するオランダのウイルス学者の証言で「事実」と確認されている(https://gendai.ismedia.jp/articles/-/85677)。
責任の追及は、まだまだ続く
これで、もうお分かりだろう。
新型コロナは、石氏らが雲南省の洞窟で採取したコウモリの糞などから抽出したウイルスを人工的に操作して、生み出した。その研究には米国の納税資金が使われていた。ウイルスは「2019年9月初めごろ、誤って流出したと判明した」。それが軍人オリンピックを経て、世界的なパンデミックを引き起こしたのである。以上が報告書の結論だ。
報告書は、さらに真相を究明するために、ダスザック氏を議会に召喚するよう要求した。先週7月30日公開のコラムで書いたように、ダスザック氏と連携していたNIAIDのアンソニー・ファウチ氏も共和党議員によって、司法省に犯罪照会されている。
ジョー・バイデン大統領が米情報機関に指示した「武漢ウイルス研究所からの流出説」を含めた調査報告の提出期限は、8月24日に迫っている。大統領がどんな報告を受け取るのか。ここで紹介した共和党の報告書が大きな影響を与えるのは、間違いない。